IPOが近づいてきたら有償ストックオプションも
IPO間近のタイミングでは、役員向けに有償でストックオプションを発行するケースが見られます。「有償」とは、新株予約権を取得する際に、金銭の支払いを要するという意味です。
税務上は、税制適格の無償ストックオプションと似ており、発行時(付与・割当時)には、金銭の支払いはあるものの、課税関係はありません。
また、行使時(ナマ株取得時)にも、行使金額の支払いはありますが、すでに有償取得済みの新株予約権に追加の金銭を支払って株式という資産を取得する(=投資する)だけなので、この時も課税関係は生じません。
取得した株式を売却した際には売却益(売却時の株価 - SO行使価格 - SO発行価格)には税金がかかりますが、株式譲渡益への課税ですので、税率は20.315%です。
特徴① 役員のコミットメント感
ではどんな時にこの有償ストックオプションは利用されるのでしょう。
特徴としては、まず「有償」だという点です。多くの場合、有償ストックオプションは役員に付与しますが、これは役員が上場に向けて身銭を切ることで、本気度を見せる、という効果があります。
特に上場間近になって参画した役員などは、昔から苦労してやってきた他の役員・従業員と同じように無償でストックオプションを貰ってしまうより、有償で取得することで、その分、追加のリスクを背負ったんだよと主張することができます。
特徴② すぐに行使できる
もう一つは、行使期間の制限がない点です。
税制適格ストックオプションは、発行後2年経たないと行使ができないという制約がありましたが、有償ストックオプションはそもそも税制非適格なので、このような制限は不要です。
したがって、発行して即行使可能にもできるのです。最近のコーポレートガバナンスの流れ、特にスチュワードシップコードの影響で、議決権行使助言会社の間では、取締役が自社の株式を保有して、自らリスクを負って経営執行にあたっているか、という点に着目しています。そうなると、ストックオプションしか持っておらず、ナマ株を保有していない取締役は標的になってしまうのです。上場後、最初の決算期末までに新株予約権を行使して、多少なりともナマ株に代えておけば、招集通知には保有株式数が載りますので、総会対策にもなるんですね。
金融工学の知識が必要?
有償ストックオプションの発行価格(=オプション料)の算定には、高度な計算方法が必要です。ブラックショールズモデルとか、モンテカルロシミュレーションとか、聞いたことありますよね。あれです。
実際の算出は、専門業者(ファイナンスアドバイザリー会社)に依頼するのが普通ですので、詳しく理解しておく必要まではありません。
ざっくりと説明しますと、行使価格は通常のストックオプションと同様に、DCF法や類似業種比較法など任意の方法で算定します。そこに、有償ストックオプションに対して特有の行使制限条項を付けます。たとえば、株価が一定水準を下回ったら行使ができないとか、逆に利益が一定水準を上回らないと行使ができないとか…、こういった制限を加えていくことで、新株予約権の価値をどんどん下げていくことが可能になる訳です。非上場会社が発行する有償ストックオプションにおいては、この発行価格(オプション料)は、行使価格の数%程度に抑えることが多いです。
すなわち、実は有償とは言っても、極めて安い金額で新株予約権を取得することができるのです。
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