その6 審査官の疑問をしっかり解決させよう

東証審査はリスクアプローチ

東証による審査は、証券会社審査同様、細かい点を突いてきます。先ほど書いた通り、東証の審査はリスクアプローチ的な観点で、審査官が関心を持ったテーマは何度も何度も繰り返し質問してきます。確実に論点になるだろうと予想していたテーマは証券審査でも十分に議論が尽くされているために意外とすんなり経過する一方、予期していないテーマを深く追及されてたじろぐこともしばしばです。

 

審査官の疑問をしっかりと解決させてあげよう

東証の審査官としても、決してあら探しをして審査に落とそうとしているわけではなく、審査官は審査官で、東証の中での審査会で自らがしっかりと説明をしなければならないため、想定質問を考え自らが確実に腹落ちするまで質問をしてきてくるだけです。もし何度も繰り返し質問がされるようなテーマがあれば、審査官がしっかりと理解していないということです。そこは丁寧に何度でも確実に納得してもらえるまで、徹底的に説明する必要があります。

審査官は決して敵ではありませんので、東証内部の審査会に諮った時に、申請会社に代わってしっかりと説明してもらえるように、十分に理解してもらう必要があると思えば、こちら側の態度も 変わってくるはずです。

 

会社の本質や姿勢を問うてくる

内部管理体制の整備などのようにコストと労力を掛ければ対応可能なものや、過去の決算数値など過ぎてしまったことについては、証券会社審査で十分に議論も尽くされ、不備があったとしても必要な是正措置は済んでいるでしょうから、実は証券取引所審査ではそれほど時間を掛けて取り上げません。

それよりも、経営者や株主の倫理性・誠実性といった本質的で一朝一夕に改善できないようなものや、将来の業績見通しのように不確実性が伴うようなテーマについて、確証となるエビデンスを求めてきます。

将来の業績見通しについて焦点となるのは向こう1年間、特に上場後最初に公表される年度決算数値です。上場直後に業績予想の下方修正を行う企業が頻発したことなどを教訓に、東証は申請会社の直近の業績見通しにとりわけ強い関心を持っています。中長期的な業績見通しについては、エビデンスを集めようにないので、それほど関心を持ちません。

 

現地調査もある

3回のヒアリングは、東証と申請会社で交互に行われます。通常のケースであれば東証2回、申請会社で1回行われることが多いようです。申請会社側で行うヒアリングの際には、併せて現地視察が行われます。本社における業務フローの確認、書類の管理状況、金庫や印鑑などの保管状況、セキュリティの状況など、短い時間ですが視察が行われます。

また本社以外に重要な拠点、工場、子会社などがあれば、別途現地調査が行われます。

 

役員面談

すべてのヒアリングが終了すると、最後に社長、常勤監査役、独立役員(取締役、監査役)に対する面談が行われます。審査官が会社に訪問して行うことが多いですが、それぞれ1時間程度の時間を割いてヒアリングが行われます(社長1時間、常勤監査役1時間、その他の独立役員まとめて1時間)。

書面による質問回答はすべて終了しているので、その内容と面談回答内容に食い違いがないように答えることが重要です。そのため、面談を受ける社長や監査役に対しては、全3回の質問回答内容を十分に説明して、頭に入れておいてもらう必要があります。食い違いもマズいですが、審査で何が論点になっているのかを知らないというのも非常にマズいです。証券会社の公開引受部とも十分に相談し想定質問を考えておくことも重要でしょう。

また、このタイミングで監査法人に対するヒアリングも行われます。これは申請会社側の同席はなく、また日程調整なども東証と監査法人との間で行われますので、会社側が介入することは原則としてできません。ここは監査法人と積極的にコミュニケーションを取っておくことをお勧めします。