その7 株式を移転する割合や時期

資産管理会社へはどの程度移すか

これまでお話ししてきたとおり、なるべく多くの株式を移管した方が、相続税対策とその後の安定株主対策には効果的です。いっぽうで、それには多額の納税資金が必要で、そのための借入金額も膨らんでしまいます。

こうでなければならないという決まりはありませんので、ご自身の資金繰りと資金調達余力を勘案して決めるしかないでしょう。

 

なお、本質的な判断材料ではないかもしれませんが、持株割合により、開示や届け出の要件が異なります。

上場後、5%以上の株主は、「大量保有報告書」という法定書類を金融庁宛てに提出し、その後1%以上の変動があるたびに、その変更報告書を提出する義務が生じます。

さらに10%以上の株主は「主要株主」と定義され、上記の大量保有報告書に加え、その異動状況は会社としての重要事実とされるため、適時開示の要件になります。

勿論いずれも、提出や開示の義務を果たせばよいだけですが、管理コストや忘れないようにするための手間なども気に留めておく必要があるかもしれません。

 

資産管理会社へはいつ移すか

資産管理会社への株式の移転は税務上「売却」となるため、そこに20.315%の譲渡税が課されることをお話してきました。ということは、なるべく売却益が小さくなるタイミングで実行することが税務上は得策ということになります。

理想は会社設立の際に、はじめから資産管理会社名義で出資することです。これならそもそも売却という行為が発生しませんので、譲渡益課税もありません。ただし、はじめから会社を一つ余計に作ることになりますので、その設立費用や維持費用が1社分余計に生じることになります。

 

株価の安い時期に移そう

次に考えられるのが、創業初期段階、特にまだ業績が上がらないうちに実行することです。場合によっては譲渡益どころか譲渡損が生じるかも知れませんので、譲渡益課税の回避という意味では効果が高いです。ただし、この場合もあまり早い段階だと、資産管理会社の設立費用や維持費用が余計にかかることになるのは同じです。 

 

上場後に移す手もある

反対に、もっとも譲渡益課税が高くついてしまうのが、上場後の移転です。株価は、上場直後に急騰し、その後は徐々に下がっていくことが多いですが、それでも上場前に算定した株価に比べればはるかに高い金額になるのが普通です。

いっぽうで、上場後であれば、資産管理会社の利用価値が明確になっているので、その維持費用が無駄になる心配はありません。また、先述の不動産運用などを組み合わせれば、大きなおカネの動きはあっても、必ずしも損をするわけではありません。

 

上場直前がベター

このように考えていくと、譲渡益課税と資産管理会社関連費用を両にらみした場合の最適解は、上場直前に移転するというものになります。

上場直前の株式の異動は開示事項になりますが、禁止事項ではないので、開示すれば済む話です。上場申請よりも前のタイミングの直前期或いは申請期中に実行するのが良いのではないでしょうか。

 

世間の状況はどうかな

実際の新規上場会社はどうしているでしょうか。2021年は125社の新規上場がありました。このうち、上場時点で資産管理会社が株主名簿に名を連ねている会社は55社、全体の44%でした。実に半数近くの会社が資産管理会社を使っていたわけです。新規上場会社の中には、オーナー系ではない会社も含まれていますので、実質的には半数を超えるオーナー系会社が資産管理会社を活用していたのではないかと思われます。

 

上場時の資産管理会社の持株比率は、少ない例で0.3%(リベロ)、多い例では75.2%(クルーバー)で、レンジ内の分布はばらけています。55社のうち、オーナー個人よりも資産管理会社の持分を多くしている会社が34社あります。中には全株式を資産管理会社名義にし、個人は0%という会社も3社(フレクト、YCP-HD、クルーバー)ありました。